耳鼻咽喉科ほりクリニック

時代病としての耳管開放症に対する統合医療的アプローチ
―アントロポゾフィー医学の視点から―

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まずはじめに

耳管開放症の受診について

 前もって必ず電話で予約して受診してください。診療には、混雑時には、他の患者さんの間を縫って進めることが多く、1時間以上かかることが多いです。特に予約なしで来院されますと、1回で必要な検査が終わらないなどの場合があります。

診療手順

 検査:聴力検査と耳管機能検査(15分臥床前後で再検査)、心理検査による評価、診療:カウンセリングおよびアドバイス、漢方処方など、患者さんにより当院の多彩な療法の紹介。

耳管開放症での多角的治療(全身療法)

 ほりクリニックでは、症状を多角的に診て診断しております。また、治療においても簡易リラクセーション訓練の他、医師とのチームの下で、専門の資格を持った療法士による以下のような療法を取り入れております。

その他の療法のご紹介

アートセラピー アロマ・セラピー オイリュトミー ブレインジム 音楽療法 操体(鍼灸)

はじめに

まず、耳管開放症の現代の耳鼻咽喉科学の現状を紹介します。
「典型的な症例では、診断は難しくないが、診断に至ったとしても決定的な治療法がなく、治療しながら、症例に応じた最適な治療を模索していくケースも少なくない。」
(日本耳鼻咽喉科学会 総説 第117回日本耳鼻咽喉科学会臨床セミナー
 耳管開放症の診断と治療 より抜粋)

実際、当院に来る前に「診断は、耳管開放症です。この病気は、治りません。」こう言われてやってくる患者さんもいます。少なくとも、当院では、“この病気は、治ります。ただ、治るには、あなた自身の工夫が必要です。ウィンドウズも、バージョン7から、バージヨン10にバージョンアップしましたね。あなた自身も、バージョンアップが必要なんです。“と答えています。すでに、当院でも、100例以上の耳管開放症の症例に取り組んできました。まだ、十分なEBMを提示できる段階ではありません。
しかし、一臨床医として、また、新たな医療の創生に取り組む現場の医師として、現状で到達しえた視点をご紹介し、少しでも患者さんたちに希望が与えられたらと考え、今回、その視点の一部を紹介させていただきます。
現段階では、ようやく、この疾患のメカニズムの一端が少し見えてきたのではないかと感じ始めたところです。
とはいえ、治療面では、まだ、入り口に差し掛かったばかり、というのが現状です。実際、改善の難しい症例も多く、今後、いっそうの工夫が必要と考えています。

Ⅰ 新たな人間理解に基づく耳管開放症の本態についての考察

① 耳管開放症の自覚症状とその背景にある心理的要因

自覚症状

自声強聴(自分の声が響いて不快に感じる)、耳閉感、水の中に入った感じ、耳痛、音が響いて不快(聴覚過敏) 、左右で位相がずれて聞こえる、難聴、めまい、自己呼吸音聴取などです。

心理的背景

耳管開放症の、患者さんに対して、詳細に病歴を聴取していくと、背景に時代の荒波に翻弄される人々の多彩なストレスが浮かび上がってきます。しかし、多くの患者さん自身が、自分のストレス状況を明確に自覚していない場合も多いです。

  • 職場ストレス(パワハラ・多忙・新人研修ストレス)
  • 定年退職で世話がかかる夫ストレス
  • 複雑な家族関係ストレス
  • ママ友の人間関係ストレス

以上のような当院の経験から見るとき、耳管開放症は、心身症的疾患であろうと推察されます。しかし、耳管という特定の器官にのみ注目する従来の耳鼻咽喉科学の限られた視点のみでは、なぜ、多彩なストレス背景を持ち、多彩な自覚症状を呈するのか、理解できません。ここでは、新たな視点での人間理解に基づく新たな耳鼻咽喉科学の創生が必要です。

② 現代医学の人間モデル

現代医学の進歩は目覚ましく、特に臓器移植の現実を前に、部品としての臓器という観念が圧倒的になっています。この前提には、目に見える五感を通じて知覚できるの現実のみが、唯一の現実であるという視点があります。
図1,2に示すように、これに基づいて考えるとき、脳が指令器官であり、他の器官はその命令に従う下部器官というように単純化されています。当然、思考活動ばかりでなく、感情活動、意志活動も脳のみの独自活動と還元されています。


図2 脳のみが思考、感情、意志を統御

③ 新たな人間モデル

さて、今日、主に量子力学の分野の進歩を人間の意識の本態に結びつけようとする先駆的研究では、脳が意識そのものの発信源であるという通説に疑問が投げかけられ始めているようです。[文献1]
その説では、人間の意識は、より普遍的な意識の次元を受け取り、それを、いわば脳が人間の意識として変換しているに過ぎない、という視点を提示しています。
当院では、従来、アントロポゾフィー医学というEUを中心に発展しつつある、統合医療の分野に注目し実践してきました。[文献2、3]
この分野では、人間の5感に基づく視点に、5感を超えた視点も考慮した新たな医学の構築に取り組んでいます。
私は、耳鼻科医として、この分野の学際的・包括的な視点を耳鼻咽喉科領域で取り組む過程で、今回紹介するように耳管開放症に関して新たな理解の可能性に触れることになった。この分野では、図3に示すように、人間とロボットの共通性は認めつつも、人間には、5感を通じて観測される側面のみではなく、5感を超えたシステムも機能していると考えています。アントロポゾフィー医学では、人体を3つの分節に分けて理解します。[文献4]
図4に示すように、頭部を、神経・感覚系、胸部をリズム系(リズムを特徴とする心臓と肺が存在)、横隔膜から下を代謝・四肢系と命名しています。そして、この視点では、思考活動は、脳に還元することができることは、従来と同じです。
しかし、感情活動は、すべてが脳に集約されず、実質的には、胸部器官とその背景に機能する5感では捉えられないシステムとの協調において機能していると考えています。皮肉なことに、今日の進歩したテクノロジーによっても、まだ、こうした不可視のシステムを明示するには至っていません。
日常的な、感情生活の実感を振り返ってみれば、人間の感情生活を、脳にのみ依拠する視点の矛盾は、ある意味で明らかなのではないでしょうか?

④ 発生学的に見た耳管の起源と呼吸器官としての位置づけ

A.発生学から見た耳管・中耳

a.系統発生に見る中耳・耳管の起源と肺との近縁性

図5に示すように、人類の進化をたどっていくと、魚類にたどり着きます。無顎類(やつめうなぎ図6、ナメクジウオ)など、進化の過程で鰓裂の数が減少してきました。図7に示すように、その前端が外耳道・中耳・耳管になり、後端は、外部が閉鎖し肺となりました。


b.個体発生に見る外耳道・中耳

胎生6週後期で、すでに外耳道・中耳・耳管が完成されています。耳管がいかに重要な器官か驚かされます。

B. 呼吸する中耳と肺

図9に示すように、中耳では、図10の肺同様に呼吸活動が営まれています。先程の進化の歴史を考慮しても、 耳は機能のみならず、形態学的にも肺と類似した構造を持つことは、とても興味深いことです。

冒頭の図4で、示したように、呼吸器官は、感情活動と密接なつながりがあります。したがって、呼吸器官の一部である中耳と、耳管の障害である耳管開放症は、人の感情と密接なつながりを持つ心身症であろうことが推察されます。コンピューターに例えるなら、耳の器官(中耳と耳管)は、ハード的には正常で、主にソフトウェア的な障害と考えられます。

C.新たな気道の定義

従来の気道の定義では、以下のように定義してきました。しかし、発生・進化を考慮するとき、 そして、”one airway, One Disease” 文献6と言われるように、従来の反省として、呼吸器官に関する包括的な視点が求められる今日、次に述べるような見直しが必要なのではないでしょうか?

  • 上気道
    鼻 鼻孔 | 鼻腔 | 鼻甲介 | 副鼻腔
    口 口腔前庭 | 口腔 | 口蓋
    咽頭 - 喉頭
  • 下気道
    気管 気管支   主気管支 - 葉気管支 - 区域気管支 - 亜区域気管支  細気管支 小気管支 - 細気管支 - 終末細気管支   呼吸細気管支

新しい呼吸器官の定義では、

  • 上気道 (乳突蜂巣・中耳・耳管)
  • 中気道 副鼻腔(前頭洞・篩骨洞・上顎洞)
  • 下気道(気管・気管支・肺胞)

D.内外呼吸障害としての耳管開放症

以上のような当院の経験から見るとき、耳管開放症は、心身症的疾患であろうと推察されます。しかし、耳管という特定の器官にのみ注目する従来の耳鼻咽喉科学の限られた視点のみでは、なぜ、多彩なストレス背景を持ち、多彩な自覚症状を呈するのか、理解できません。ここでは、新たな視点での人間理解に基づく新たな耳鼻咽喉科学の創生が必要です。

① 耳管開放症の自覚症状とその背景にある心理的要因

自覚症状

自声強聴(自分の声が響いて不快に感じる)、耳閉感、水の中に入った感じ、耳痛、音が響いて不快(聴覚過敏) 、左右で位相がずれて聞こえる、難聴、めまい、自己呼吸音聴取などです。

心理的背景

こうして、呼吸器疾患としての耳管開放症という視点に立つとき、バラバラに見えていたこの疾患の自覚症状も 少し整理されてきます。呼吸は、いわゆる肺による外呼吸と、末梢組織における内呼吸に分けられます。混沌としていた耳管開放症の症状も、以下のように整理されます。

  • 外呼吸の障害による症状
    聴覚過敏
    自己呼吸音聴取
    耳閉塞感
    耳痛
  • 内呼吸の障害による症状
    拍動性耳鳴
    めまい
    突発性難聴、メニエール病への移行など

Ⅱ 当院における耳管開放症症例の実像と耳管機能検査の工夫

H26年度より当院で診断した耳管開放症の症例数は、合計約100例近く。そのうち、客観的診断根拠となる耳管機能検査を導入したH28年4月よりH29年2月までの約10か月間に診断した約70例を中心に検討した。
今回、表1に示す日本耳科学会の耳管開放症診断基準案2016に従って、症例を解析した。その結果、確実例22例、疑い例37例、その他11例でした。なお、現在のところ、治療効果の解析には、至っていません。今後、検討を進める予定です。
なお、鼻すすりの関与している例は、3例、今までに、当院では、他院に精査依頼し、上半規管裂隙の症例が1例ありました。また、親子で診断された例が1例あり、遺伝的な要素も影響していると考えています。病悩期間は、長い症例では、30年以上にわたり、皆が自分と同じ聞こえ方だと長く誤解してきた例もあり、かなり若年から発症している例も少なくないと思われます。

表1 耳管開放症診断基準2016
年齢
年齢範囲 13~83歳   平均年齢 40歳

自覚症状
自声55例(78%)、耳閉感39例(56%)、自己呼吸音聴取7例(0.1%)、めまい19例(27%)耳痛5例(0.07%)
体質
低血圧32例(46%)、冷え性29例(0.4%)、睡眠障害34例(0.49%)

耳管機能検査の工夫

当院では、当初、耳管機能検査を、通常の座位と、直後の前屈位で2回行っていました。その後、20分仰臥位にして、寝たままで検査していました。さらに、最近では、20分仰臥位後に、座位に戻って検査するようにしています。また、純音聴力検査についても、初診時に混合性難聴や、左右差のある所見、などが認められる場合には、20分仰臥位前後で検査を繰り返し、聴力の変動、改善を確認するように心がけています。この手順によって、耳管機能の改善の明確化や、また聴力の改善を見る例もあり、とても有効な方法と考えています。

Ⅲ 当院における治療方針

当院では、今回紹介した視点に立って、患者さんの背景を理解し治療に結びつけようと努めています。初診時には、患者さんに対し、当院の現状におけるこの疾患についての理解を(仮説的な段階であることを伝えつつ)紹介します。
具体的には、図11に示すように、人間の3つの要素、精神(考える力)と感情(感じる力)、身体(意志の力)のそれぞれに働きかけます。
まず、患者さんにストレスに関連する心身症的な疾患であることを告げ、知的な理解を促します。次に、ご自身のストレス状況を振り返っていただきます。
実際には、単なるアナムネーゼに留まらず、カウンセリングのレベルまで踏み込まないと、ご自身のストレスを過小評価していたり、抑圧していたりする場合も多いです。さらに、睡眠障害が関連していることが非常に多いので、睡眠習慣の改善に役立つ具体的な睡眠衛生指導を行います。

さらに、図12に示すように、症例によっては、より踏み込んだ治療に取り組んでいます。まず、いわば精神のくせが関連することも多く、カウンセリングを通じて、思い込みやこだわりの傾向や捉われに気づいていただく事も重要です。
とは言え、ストレスに対する無意識の反応や感情のくせの改善には、呼吸器官や循環器官に刻み込まれており、様々に工夫がいります。身体面では、アロマセラピー(当院では、研修を終えた有資格看護師によるインライブングという独自の施術を行っている)はとても有効で、5症例で改善効果を確認しています。患者さんに歩く時間を増やすなどの指導も大切です。また、当院で取り組んでいるオイリュトミー療法という運動療法は、リラクゼーション効果が高く、一部で取り組んでいます。
最後に、従来、多くの報告でも確認されています文が文献7、腹部臓器を介して働きかけますが、漢方薬は有効です。一般的な症例には、加味帰脾湯を処方し有効性を確認しています。食欲不振や体重減少を伴う例では、補中益気湯。比較的、実証のタイプで、臍上季の確認できる例では、主に柴胡加竜骨牡蛎湯を処方して有効な例が多いです。その他、当帰四逆加呉茱萸生姜湯や、苓桂朮甘湯などを処方しています。

まとめ

今回、耳管開放症に対する新たな理解を提案しました。耳鼻咽喉科領域において、部分と全体、すなわち耳管と全身の包括的・統合的な理解は、今後ますます重要になると考えます。

文 献

1)Stuart Hameroff and Roger Penrose. Consciousness in the universe: A review of the ‘Orch OR’ theory. Physics of Life Reviews, 2013 DOI: 10.1016/j.plrev.2013.08.002
2)堀雅明:耳鼻咽喉科における統合医療 -アントロポゾフィー医学入門のアプローチ。大田区医学会誌2:2010
3)堀雅明:アントロポゾフィー医学における痛みの本態論とその治療。ペインクリニック、29(3):325-335,2008.
4)堀雅明:全身と口腔と歯の構造と機能に見られる共通原理 人体3分節構造について。全身咬合学会雑誌,19(2),47-53,2013
5)岩堀修明:図解 内臓の進化 形と機能に刻まれた激動の歴史 講談社
6)特集 One airway, one disease.喘息、23(1):2010
7)菊池俊品:耳管開放症の診断と治療 耳管疾患 特集 Otol Jpn 24(3),257-261,2014

2017年2月に日本で初めての日本人によるアントロポゾフィー医学の書籍が販売されました。 “シュタイナーのアントロポゾフィー医学入門”(ビイングネット・プレス刊)総勢24名による共同執筆で、 私も耳鼻咽喉科の章を担当しています。