耳鼻咽喉科ほりクリニック

第1回 耳と聴覚の解剖と生理の基礎。 最先端研究を踏まえて理解する、意志的な聴覚システムの仕組み。

第一回

 耳と聴覚の本質に迫るためには、まず、耳の基本的な解剖学的、生理学的な理解が必要です。図1で音の伝導路を確認してください。

 外耳道から入ってくる音は、鼓膜を振動させ、それが耳小骨に伝わります。ここで、音の空気振動は、耳小骨の物理的振動に変換されます。次に、図2が、今回のテーマの中心となる器官の蝸牛です。鼓膜に連なる3つの耳小骨(つち骨、きぬた骨、あぶみ骨)の内、3番目のあぶみ骨は、この蝸牛の窓に接続し内部のリンパ液(外リンパ液)へ振動を伝えます。図2の実践の矢印が上層のリンパ液内(前庭階)を進むリンパ液内の振動を示します。

 この進行波は、さらに頂点へと向かい、そこで蝸牛孔という穴で反転し、下層のリンパ液内(鼓室階)を破線の矢印に沿い進みます。この過程で、図3の左下の二つの周波数の例に示すように、上下の層の中間にある基底膜に進行波が生じます。ここで、図2の蝸牛管という今までとは異なるリンパ液(内リンパ液)で満たされた小さな三角形の空間に注目してください。

 この蝸牛管の中には、図4、5に示すように、らせん器という装置があります。このらせん器は、音を水の物理的振動から電気信号に変換する、いわばエネルギー変換装置です。次回号では、この過程を音の4つの要素である、物質体、エーテル体、アストラル体、自我の要素に仕分けする視点から紹介する予定です。

 引き続きらせん器について解説いたします。図5に示すように、らせん器には、2種類の有毛細胞が存在します。まず、内有毛細胞は、3500個あり、ちょうどピアノの鍵盤にあたり、周波数に応じて聴覚神経にインパルスを送ります。さて、図3で示すように、蝸牛の中のらせん器は、底部の耳小骨に近い方の入口よりでは、高い周波数に反応し、頂点側では低い周波数に反応します。ただ、ちょうどピアノでは、弾き手が、指のタッチの強さや、足のペダルで様々に音に修飾を加えるように、ここにも、特定の周波数帯を強調したり抑制したりしてする仕組みがあります。

 この仕組みは、蝸牛増幅装置と呼ばれ、次に紹介する外有毛細胞によって機能します。すなわち、音の周波数は、特有の周波数帯に反応する内有毛細胞の種類により知覚され、音の強さは、外有毛細胞により増幅される内有毛細胞への刺激の強さにより知覚されます。




 さて、外有毛細胞の機能は、すでに述べたように、いわばピアノを奏でる繊細な指のタッチの強さの調節に相当し、12000個もあります。

 図6に示す外有毛細胞の細胞膜の直下にはプレスチンというたんぱく質の微細なモーターがたくさん並んでおり、その収縮による振動で、この細胞自体が収縮します。

 図5と図7に見るように外有毛細胞は、蓋(がい)膜という膜に毛(聴毛)を突き出し、蓋膜と周囲のリンパ液の振動に応じて電圧が発生し、図7の赤い上向き矢印のように、その揺れを増幅する方向に作用します。

 外有毛細胞の伸縮運動は基底膜の振動を増幅し、蓋膜との間のリンパ液の流動を増大します。その結果、特定の周波数領域が増幅されることとなるのです。この増幅された振動で、内有毛細胞のそれぞれの周波数のボタンが様々な強さで押され、図7の左下向き矢印のように神経を介して脳の聴覚中枢で音が認識されます。外有毛細胞は、なんと1000倍の増幅作用を発揮します。外部の音に同調して、20kHzもの高周波の音波に同調して伸縮できるのです。これは、1秒間に2万回もの伸縮運動です。これは全身で最も高速の振動です。ここでは、外部から侵入してくる音との微細な共感的な対話が行われていることになります。実際に、この外有毛細胞には、まるで筋肉に見られるように多くの運動神経が配置されており、聞こうとする音の領域を積極的に増幅する仕組みが働いています。

 従来、中耳に配置されている神経の7割程度が、この外有毛細胞へ分布する運動神経で、知覚神経は、3割程度ということの原因が大きな謎でした。本来、知覚器官ならば受動的なはずで、知覚神経で十分なはずだと考えられたからです。この理由は、ここまで紹介したメカニズムで、理解できることでしょう。一見、知覚的、受動的な感覚器官であるはずの耳が、じつは、とても積極的で意志的な臓器でもあるのです。しかし、シュタイナーによると、それでも、聴覚システムの中での3分節の視点では、耳は知覚的で、神経感覚系に当たり、喉頭が聴覚における真の意志的器官として、代謝四肢系に相当し、耳と喉頭が一体となって聴覚が機能すると指摘しています。それどころか、呼吸と髄液のリズム運動が、蝸牛管内のリンパ液のリズム運動と連動するとのことです。まさに有機体としての営みが理解できます。これについても次回号でふれたいと考えています。