新型コロナ後遺症外来

当院では、これまでに約200余名のコロナ後遺症の患者さんの診断と治療にとり組んできました。この間に、患者さんの経過を通じて学ばせて頂いた多くの知恵と、従来の知見を統合してさらなる診療の質の向上に努めています。

コロナ後遺症とは

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の症状は,新型コロナウイルス(SARSCoV-2)に罹患した人にみられ,少なくとも2カ月以上持続し,また,他の疾患による症状として説明がつかないものです。通常はCOVID-19 の発症から3カ月経った時点にもみられます。

以下にほりクリニックに受診した患者さんの問診の結果を紹介します。

次に、発症からの日数と急性期症状を有する患者の割合を示します。基本的には、時間経過とともに改善していくことが多いです。ただし、一部は、さらに長く継続する傾向があります。また、回復して、職場復帰後に再発したり、発症後に不定の期間を経て症状が出現したりする場合もあります。したがって、基本的には、長期的視点に立って、通院加療を継続する必要があります。

発生頻度

発病から3か月後、登録された成人COVID患者の約10〜65%が持続的な症状を報告しています。急性期から回復した後に新たに出現する症状と,急性期から持続する症状があります。また,症状の程度は変動し,症状消失後に再度出現することもあります。小児には別の定義が当てはまると考えられます。

リスクの高いグループ

ストレス障害、倦怠感、うつ病、不安障害、肥満などの既往歴ある人は、はるかに頻繁に、より重度の影響を受けます。
すなわち、後遺症は、コロナ感染により突然発症したというより、もともと後遺症に至る素因があったとも考えられます。

症状、病態および診断

  • 嗅覚・味覚症状 COVID-19 における嗅覚・味覚障害の特徴は,発症当時は高度の障害であるにも関わらず,数週で多くの症例が改善することです。
  • 慢性上咽頭炎:罹患後症状の治療法として、多彩な症状に対して上咽頭擦過療法(Bスポット療法、上咽頭処置)に効果があることが知られています。当院でも、ファイバーにて確認すると、上咽頭にいわゆる慢性炎症の所見がある例が多くみられることを確認しています。
  • 疲労感/倦怠感/全身の脱力感持続的な状態から、一時的に繰り返し自覚する場合、甲状腺機能の変化に伴う動悸や疲労感など、様々です
  • 息切れ/呼吸困難、特に労作時(肺機能検査の異常の有無にかかわらず)胸部の締め付け感、および胸痛など。発作を繰り返す場合も多い。
  • 頭痛、特に運動の最中や運動後など。
  • 痛み 筋肉痛、関節痛、特定の部位に限らず、体の様々な場所に移動することもあります。女性,加齢,喫煙,肥満,過去に運動器の痛みの既往のある方等のリスクが高くなります。
  • 認知機能の障害。集中力や記憶力の低下など。頭のボーとした感じ、専門的に「脳の霧(brain fog)状態」などと言われます。
  • 高次機能障害と呼ばれる以下の図に示すような症状を呈する場合もあります。
  • 心身消耗状態を背景に、耳管開放症の症状が出現することもあります。耳閉感、自声協調(自分の声が耳に響く)、周囲の音が不快に響くなどの多様な症状を自覚します。
    耳管開放症の詳細については、こちらをご覧ください。

子供の主な症状では、倦怠感、睡眠障害、味覚および嗅覚障害、頭痛などが目立ちます。

一般的な長期神経障害

  • 睡眠障害。寝入りが悪くなる、途中で目が覚める、朝目覚めにくい、目覚めても疲れが残る。
  • 耳鼻科の領域では、めまい、味覚および嗅覚の障害。

診療ステップ

01

検査

心理検査(不安やうつレベルの評価)ホームページの事前問診で受診前に可能
自律神経機能検査・抹消血流検査(約3分間の脈の検査)
採血(甲状腺機能、鉄欠乏など)さらなる精査(必要と判断した場合、連携している東京蒲田病院にてCT検査など精査を依頼する場合もあります)

02

治療

簡易カウンセリング
症状や病態に応じて生活指導
漢方処方
*上咽頭処置(Bスポット療法、上咽頭擦過療法)(希望者)
①鼻腔からメンボー(塩化亜鉛塗布)により上咽頭を約1分刺激。その後、②口腔から咽頭捲綿子(塩化亜鉛塗布)で上咽頭を擦過します。頻度は、週2回から推奨されています。当院では、本人の希望に沿って無理ない頻度で実施しています。

※カウンセリング(心理療法)とは?
経験の深いカウンセラーの指導のもとで個別化した指導で効率よく学習を進めること。現在のストレス対応は、それまでの生育過程で、誤って身につけてしまったストレス対応癖のなれの果ての必然の結果という側面もあります。こうした視点からは、病気は、偶然の出来事ではありません。病むに至った過程を振り返って、新たな自分を発見し、育てることは、人生の重要な体験の一つです。
※鍼治療とは?
数千年にもわたる東洋医学の叡智が、ハリ治療には生きています。症状が改善することで、多くの患者さんに好感を頂いています。鍼が怖い方には、痛くない施術も可能です。からだが楽になると、心も軽くなります。
03

セルフケア―

めい想(マインドフルネスめい想、自律訓練法、漸進的弛緩法)、量的運動指導(インターバル速歩、ストレッチ、自律神経体操)、質的運動紹介(ヨーガ、呼吸法、耳介のツボマッサージ、指ぬき、手首・足首・首の柔軟体操。全身の皮膚マッサージ刺激、呼吸法)、食養生指導・栄養指導。睡眠の質の改善指導。
注:ここでいう量的運動とは、腕立て伏せや腹筋のように回数と運動負荷が問題となるタイプの運動。特に若い人に向けて重要。興奮させる交感神経を活性化させる。免疫は抑制される傾向がある。
質的運動とは、ヨーガや太極拳のように静かな動きでリラックスしながら行う運動

ほりクリニックにおける、初診時の症状の分布(2022.5~12月)

当院の治療指針と希望と回復への道のり

当院で、患者さんにとって、もっとも大切だと考える事
*治ろうとする意志や希望を大切にすること
患者さんは、心身の様々な症状、仕事、生活への不安など、激しいストレス状態に直面することが多いです。そうした中にあっても、あるいは、そうした時だからこそ、ささやかでも、希望や、治ることへの意志を自らに再確認することをお勧めします。
*自身の状態や回復程度に応じて、無理のない範囲で、自宅で自らにあったセルフケアによる、治癒力の活性化に取り組むこと
多くの患者さんが、発症前から様々な程度で心身の不安定を自覚されています。また、体や心のメンテナンスにあまり留意してこなかった傾向も見られます。今回のつらい経験を乗り越え、前向きなチャンスとして生かすために、ご自身の大切な心身の養生法を、しっかり身に着けていただけるようサポートしていきたいと思います。
人間は、一人一人、ユニークな存在です。したがって、治療も、画一的では十分ではありません。受動的な治療(外的ケアー)のみならず、主体的で自律的な取り組み(セルフケア)もとても重要です。

01

冷えの改善と暖かさの回復(からだの新陳代謝における熱の産生や制御に関連するシステムの活性化)

実際、冷え性という病態は、コロナ後遺症の治療において需要なヒントとなります。しかし、本人は、あまり冷えの自覚の場合がないことも多いです。こうした場合でも、回復の過程で、ようやく冷えを自覚します。「コロナの病態の本質は冷えである」。このように言っても過言ではありません。生き生きとした生命力、新陳代謝の働きを活性化し取り戻すことは、大変重要です。健全な状態では、体の暖かさをはっきりと実感できます。この点、当院で指導している耳介マッサージ、指ぬき・手足の柔軟体操・全身の皮膚マッサージは、効果の高いセルフケア―です。末梢の循環を改善し、自律神経をバランス化します。また、温泉がとても有効だった患者さんもいます。(アルカリの硫黄温泉のほうが、酸性の温泉より有効だったといいます)。回復の過程で、一時的に発熱することもあります。背部の腎臓のある部位へのショウガシップは、簡単で、呼吸にも安定効果があります。

02

呼吸と自律神経の安定化

コロナ感染において、まず呼吸器官としての肺や気道(鼻、副鼻腔、咽頭、喉頭など)が主なターゲッットとなります。呼吸が自律神経を介して心・感情と密接に関連していることは、誰もが自覚している事実です。こうした視点から見ると、例えば、息苦しさは、単なる身体症状に留まらない事がわかります。実際、コロナ後遺症において、不安感や恐怖感などはとても多くみられます。安定した呼吸と心身の調和を取り戻すことが、回復のカギとなります。長期に継続する呼吸障害などを克服するうえで、感情面への、外的ケアー、内的ケアーはとても重要です。当院では、定期的に心理検査や自律神経機能検査などを実施し、客観的な評価をふまえ、治療を進めていきます。経過中、カウンセリングは、大切な選択肢の一つです。セルフケア―としては、瞑想やヨーガなどは、セルフケア―の主軸となります。沈静化効果のあるカモミールティー。朝のローズマリーの足湯は、新陳代謝を活性化します。また、夕方、夜間のラベンダーバスミルク(Weleda社)は、深い睡眠への助けになります。

03

水分と血液循環の改善

疲労感やだるさ、重さを克服するために、簡単な運動習慣やストレッチでも効果があります。また、鍼灸治療やアロマセラピーもとても有効です。エッセンシャルオイルの局所マッサージや、足湯は、セルフケア―として簡単に実施出来ます。全身のアロマセラピーでも、Solum oil(Wala社)は、多くに実績があります。当院で提供する様々な療法(自由診療のページ参照)も、他の療法同様、睡眠を深くし、治癒を促進します。

04

食習慣・栄養補助食品

食習慣の見直しも重要です。新鮮で、安全(無農薬、低農薬など)な食品の選択。添加物の少ない食品の選択。食物繊維、発酵食品を多くとる。小麦食品(グルテン)は、頻度と量が少ないことを推奨します。良質の脂質、オメガスリーの豊富なアマニオイルはすすめです。苦み成分含んだ食品の摂取(菜の花、フキ、ウド、セロリ、パセリ、ハーブ類)は、消化を促進し、新陳代謝を活性化します。
ビタミン(C,B群,E)やプロテイン(ホエイプロテイン)ナイアシンなどを補完的に摂取することで改善する方もおられます。
潜在的な鉄欠乏(一般的な検査では不十分で、必ず、フェリチンという貯蔵鉄の検査は必須です。
参考書籍:心を強くする食事術 藤川徳美(宝島社)

05

組織の再生

個別に選択される漢方薬の処方は、自然治癒力の活性化にとても有効です。回復過程と症状や病状に応じた選択が大切となります。マインドフルネス瞑想(呼吸への集中、慈悲のめい想)、自律訓練法、ヨーガ、呼吸法などは、自律神経・免疫系を安定化し自己治癒力を促進します。自由診療では、アントロポゾフィー医学に基づいて、様々な植物・鉱物製剤が処方されます。
参考書籍:呼吸法の極意 ゆっくり吐くこと 成瀬雅春(BABジャパン)
意識ヨーガ 成瀬雅春(BABジャパン)
最高の休息法 久賀谷 亮(ダイヤモンド社)
部屋で自律神経を整える 小林弘幸(興陽館)

06

セルフケア―実施上の注意点

回復過程おいて、各人の状態の変化を注意深く見極め評価していくことが重要です。特に運動などは、一時的に症状を悪化させることがあります。時に、マッサージや様々なセラピーの施術後に症状が一時的に悪化を体験する場合もあります。医師やセラピストによる継続的で慎重な観察と評価が大切です。
※耳管開放症の「生活習慣の改善」も参考にしてください。

07

こころとからだの一体感・幸福感を取り戻す

「生きる意欲や生きがい」を取り戻すための試みが重要となります。これには、一人一人、ユニークな個性が関係します。どんな事が自身を元気にするのか、何が元気を奪うのか、それまでの人生の振り返り、見直し、洗い直しが必要となります。マインドフルネス瞑想、自律訓練法、ヨーガ、呼吸法などは、体と心のバランスを取り戻すうえでとても効果があります。芸術の力を借りることは、とても重要です。自身で、粘土あそびに取り組むことや、気持ちを色や形で表現することも助けになります(油絵より、パステルや水彩絵の具の使用が推奨されます。固く冷たくなり、みずみずしさを失った心を溶かしてくれます)。外的ケアーとしてのアロマセラピーやアートセラピー(絵画造形療法)も推奨されます(自由診療)。森の中を探索する森林療法、植物や動物、自然との触れ合いは、治療的に作用します。詩の朗読や、絵本の世界に身を置くことも、心の暖かさを取り戻すきっかけとなります。

08

希望の回復

コロナ後遺症に打ちひしがれた状態から、将来への希望を取り戻すまで、各人各様の歩みがあります。この間には、専門家、家族、友人など、周囲からの継続的で暖かいサポートもとても重要です。そして何より、単なる病気の経験から、自身の新たなる成長へと歩みを始めることで、新たな人生へのスタートラインへと到達できることでしょう。回復過程は、直線的には進みません。行きつ戻りつというのが、通常です。一喜一憂せずに、じっくり取り組む心づもりが大切です。回復に従って、職場復帰など、具体的な手順についても、相談やアドバイスが必要になります。

09

職場復帰時の留意事項

図に示すように、様々な方向からのサポートが必要となります。罹患後症状について社会には、まだK十分な知識が普及したいません。こうした中で、知恵を絞りながら、職場復帰や学校への復帰について患者さんや家族との協働が大切です。

本原稿の基本とした参考資料

アントロポゾフィー医学の観点からのLONG-COVID(コロナ後遺症)症状と治療オプション(医療専門家のための国際専門家委員会の勧告)

注:アントロポゾフィー医学とは、ルドルフ・シュタイナーとイタ・ベーグマン医師らにより生まれた医療のシステムです。西洋医学を基本にしながら、心と体にやさしい医学です。

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