「いつごろから、症状が出始めましたか?」
当院はこの問いかけを大切にしています
「いつごろから、症状が出始めましたか?その当時、思い当たるような生活上の変化がありましたか?」実はこの病気の改善には、この問いかけが最も重要なのです。そして、残念ながらなかなか医師から問われることのない質問でもあります。耳管開放症は、多くの場合、様々なストレス背景を伴って発症することが多いのです。“火の無いところに煙は立たず”というコトワザがあります。原因をしっかり探ることは、結果としての病気の回復への重要な一歩なのです。
当院では、皆様とともにチームを組んで、いわば探偵のように、”なぜある時期から症状が出たのか、特定の場面で悪化するのか?“といったように様々に探索を進めます。それまでの受診歴、治療歴、症状の経過、生活背景、成育歴、また明確なストレスの関連性があるのか、ないのかの探索。とは言え、初診時からストレスとの関係をご本人も明確に自覚されている場合と、そうでない場合があります。ストレスとの関連では、ストレスの真っ最中に発症される場合が多いです。しかし、長期にわたるストレスが、解消された時期に症状を自覚される方もいます。ストレスとの関連が明確でない場合、まったく別の原因なのか、本人が自覚していないかなど(こうした場合も意外と多いです)、じっくりと検討する必要があります。
なお、こうしたストレス病として発症する場合のみではありません。持病や手術などにより急激に体重が減った時、ダイエット、外科手術、がんなどで消耗した時などに発症することもあります。この場合、耳管の周囲の脂肪組織が減ったために、耳管が緩んでしまうのです。また、妊娠中や授乳中も症状がみられることがあります。潜在する病気に注意が必要な場合もあります。明らかに遺伝的な要素の関与も疑われます。親子や兄弟でこの病気を持っている方や、小児期から自覚されている方もおられます。
最近、新型コロナ感染後に、コロナ後遺症の症状として、耳管開放症の症状を自覚される方(当院の初診時の自覚症状の内、全体の20%近く)も多くなっています。
耳管開放症の症状を軽くするには、「それは悪化要因を減らし、改善要因を増やす」ことです。では、どうしたらよいのでしょうか?
詳しくお話します。
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瞑想・リラクセーション
リラクセーション訓練(緊張体質から脱却し、効率よい心身へと進化する)、マインドフルネス瞑想、自律訓練法、漸進的弛緩法なども効果的です。
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運動
日中の適度の運動習慣は、新陳代謝を改善し、深い睡眠に必要な筋肉から分泌される多くの神経伝達物質を準備することにもなります。ただし、耳管開放症では、過度の負担のかかる運動は、かえって症状を悪化させます。実際、免疫系も過度の運動によって低下することも知られています。
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心身リラクセーション
ストレッチ、ヨーガや気功のようなゆったりと筋肉をリラックスさせる運動は、副交感神経を活性化させます。
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呼吸法
呼吸法は、自律神経を活性化し、心身の安定化に有効です。
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食事改善
消化機能の充実、内容の改善、良質の脂質(オメガスリーの多い、アマニオイルなど)・十分な植物性たんぱく質の摂取が重要です。患者さんの8割は、やせ型の女性です。この場合、消化機能の衰えが潜在している場合も多いです。また、鉄欠乏貧血の方もいらっしゃいます。タンパク質、ビタミンB群、鉄などに十分配慮が必要です。
また、食品添加物を減らす、精製食品(白砂糖、精製塩)を減らして黒砂糖や天然塩にかえる、調理法の改善(特に揚げる、炒めるといった調理法を減らす)、糖化させない調理法を増やすなど、質の改善も重要です。
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栄養補助
潜在的貧血(血清鉄やヘモグロビンだけではなく、血液中のフェリチンの測定は必須)、潜在的ビタミン欠乏など個別化した補完療法も大切です。
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嗜好品の卒業
過度の飲酒や喫煙習慣は動脈硬化を促進し、細胞を窒息させます。
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入浴
睡眠前の1.5時間から2時間以前に上がるか、朝入浴にしましょう。
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睡眠
この病気に効果がある(特にやせ型、冷え症傾向の女性)加味帰脾湯は、もともと更年期の睡眠障害に効果のある漢方薬です。耳管開放症の方は、何より深い睡眠をとれるように、日中のライフスタイルに十分な配慮がいります。十分な睡眠は、日中の生活習慣によって実現できます。現代人の最も大きな問題点は、脳神経ばかりに負担をかけすぎることです。日々の運動習慣や、適切なストレス解消、リラクセーションがとても大切です。
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テレビ・携帯・パソコン
視聴時間を制限し、脳神経活動の過剰な興奮、刺激過剰を卒業する。寝る前の1~2時間が重要です。特に、やせ型の患者さんでは、日々神経の消耗傾向があります。可能な限り視聴時間を減らしましょう。
◆推薦図書
- 最高の休息法 CDブック 久賀谷亮著(ダイヤモンド社)
- 部屋で自律神経を整える 小林弘幸(興陽館)
- ヨーガ的生き方で すべてが自由になる! 成瀬雅春(BABジャパン)
- 都市とめい想 日常こそが最高の瞑想空間 成瀬雅春(BABジャパン)
- 呼吸法の極意 ゆっくり吐くこと 新装改訂版 成瀬雅春(BABジャパン)
- マンガでやさしくわかるレジリエンス 久世浩司著(日本能率協会マネジメントセンター)
ご希望の方は、聴力検査の結果のコピーをもらいましょう。
なぜ、耳鼻咽喉科専門医でも正確な診断がなされないか?
図は、二つの純音聴力検査の結果です。〇は右耳、×は左耳。左方向が低音、右方向が高音。下に行くほど難聴の程度が強い。〇と×は、気導と言って、耳に当てたヘッドホンから行う検査。[ ]鍵カッコは、骨導と言って、耳介の後部に当てた端子から内耳(蝸牛)へ直接音を送り、音を識別する能力そのものを評価します。[ ](鍵カッコ)は、カッコの開いている方向により、右が開く[ が右耳で、左が開く ]は左耳を示します。
こちらは異常がない聴力検査の結果です。
耳管開放症の患者さんが、耳鼻科を受診して、「聴力検査では異常なし」と告げられることが大変多いです。これは、いわゆる、耳閉感、耳の圧迫感、自分の声が響いて不快などの症状で、耳管が解放していても、必ずしも純音聴力検査という一般的な聴力検査では異常が出ないことが多いからです。図に、正常な聴力検査の結果を示します。
また、耳管機能検査についても、この検査で異常があるなしと、耳管開放症の有無とは区別させる必要があります。耳管開放症の症状は、日内変動が著しいいからです。ほんの数分の耳管機能検査の結果で、正確な診断を得るのは難しいのです。
図は、二つの純音聴力検査の結果です。〇は右耳、×は左耳。左方向が低音、右方向が高音。下に行くほど難聴の程度が強い。〇と×は、気導と言って、耳に当てたヘッドホンから行う検査。[ ]鍵カッコは、骨導と言って、耳介の後部に当てた端子から内耳(蝸牛)へ直接音を送り、音を識別する能力そのものを評価します。[ ](鍵カッコ)は、カッコの開いている方向により、右が開く[ が右耳で、左が開く ]は左耳を示します。
上左の結果では、右耳の低音部で、[ 鍵カッコ(右が開いている)と、〇の間にギャップがあります。
専門的には、エアボンギャップ(気骨導差)と言います。耳鼻科医が、素直に診断すれば、この結果から、伝音性難聴と言って、内耳の蝸牛の障害(音を感じ取るセンサーの障害)ではなく、音を伝達する器官の障害と推察されます。実は、ここに、耳鼻科医が、陥りやすい落とし穴があるのです。当院に来院される耳管開放症の患者さんの多くが、前医で突発性難聴、低音障害型感音性難聴、メニエール病などという診断(感音性難聴)を受け、時にステロイド剤や、イソバイドというメニエール病の治療薬(あまりおいしくない)を処方された経験があります。耳鼻科医が、ここに示した聴力検査結果を、素直に受け取らないことが多いのです。先程提示した3つの病気では、本来、ここで示した上左のような検査結果になるはずです。すなわち、音を感じる機能そのものの障害のために、右耳の丸の結果と、右が開いた鍵カッコが、同程度に低下するはずなのです。
ですから、〇印と、右に開いた[ (鍵カッコ)が一致します。自覚症状をしっかり確認すれば、このような誤解は生じません。また、さらに残念なことに、例え耳管開放症に伴う伝音性難聴と診断できても、耳管開放症という病名そのものが考慮されないことも多いです。
耳鼻咽喉科医に限らず、現代の医師の多くが、心と体の密接な関連にあまり興味がないか、基本的知識が欠落しています。多くの大学病院の耳鼻咽喉科でも、なかなか、こうした視点が重視されません。では、精神科や心療内科はどうか?現在、その診療の中心は、薬物療法です。
しかし、投薬によって、心身の深層のメカニズムを回復することにはなりません。もちろん、私も、危険なうつ状態の患者さんの場合は、紹介させて頂く場合もあります。しかし、本人の治る力を十分大切にする診療を実践している医師が少ないのが現状です。
耳鼻科医の診断能力の向上と心と体の関係についての理解の深化が求められています。
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Q
- この病気は治るのでしょうか?
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A
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実際、他の耳鼻科で“この病気は、治りません”そう言われたと言って来院される方も少なくありません。実際専門家でも、手術的な方法(耳管ピン挿入手術)のみが有効だと信じ込んでいる現状があります。当院では、今日まで多くの患者さんを診断し、実際に改善しています。実は、私自身も耳管の開放を経験しています。実は、多くの方が無意識のうちに、耳管の解放した経験を持っています。ただ、耳鼻科医も含めてほとんどこの事実に気づいていません。疲労時、睡眠不足時など…例えば、海外旅行の帰国時など、いわゆる時差ボケの時にも、体験されているのです。耳管開放症として自覚されているのは、このような生理的な耳管開放症状の一部だと考えられます。
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Q
- 先生が治してくれるのでしょうか?
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A
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医師の使命は、病気を治すことです。ただし、その役割は時と場合により異なります。医師の役割は大きく二つに分かれます。一つには、おぼれる人を救う治療、もう一つは、おぼれないように泳ぎ方を教える治療です。耳管開放症でも、しっかり救助すべき方がいます。この病気は、心身症すなわち、心と体のアンバランスが原因で発症することが多いです。これが行き過ぎると、神経が消耗して、うつの傾向が強まることもあります。
こうした方は、心療内科や精神科との協力のもとでの治療が必要です。精神的に落ち着きを取り戻してから、この病気の治療を開始すべき場合もあります。また、早急に改善したい方には、手術(耳管ピン挿入)を紹介する場合もあります。でも多くの患者さんは、病気をきっかけに、“ストレスとの付き合い方の学び直し”が必要で有効です。この場合、主役は患者さんご自身です。私たち治療家は、アドバイザーであり、道先案内人です。当院では、患者さん一人一人の、それぞれのユニークな回復の歩みを全力で応援します。
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Q
- 治るのにどのくらい時間がかかりますか?
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A
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そう聞かれることもあります。これはそれまでの経過や、ご自身との取り組み方次第と考えています。